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エッセイ

月7万円のベーシックインカム、わが家は得する?損する?:竹中平蔵案を5つの家計で計算する

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「全員に毎月7万円」。2020年、経済学者で元大臣の竹中平蔵氏が示したこの案は、大きな騒ぎになりました。「7万円で暮らせるわけがない」「年金をなくすつもりか」。いまもSNSでは、この案を引き合いに出した書き込みを見かけます。

このサイトはベーシックインカム(BI)を応援していますが、特定の案を応援しているわけではありません。そこで、賛成か反対かを決める前に、もっと身近な問いから考えてみます。この案が実現したら、わが家のお金は増えるのか、減るのか。

意見先に答えを書くと、「設計しだい」です。同じ7万円でも、何と引き換えにするのか、誰が後から返すのかで、結果はプラスにもマイナスにもなります。その幅を、具体的な数字で見ていきます。

竹中氏は何を提案したのか

きっかけは、2020年9月23日夜に放送されたBS-TBSの番組「報道1930」です。番組では、竹中氏の持論が「国民全員に毎月7万円支給」というパネルで紹介されました。1

報道によると、マイナンバーと銀行口座をひも付けて所得を把握し、一定以上の高所得者には給付の後で返してもらう、という仕組みです。番組で「将来は年金や生活保護などが必要なくなるのか」と聞かれた竹中氏は、「基本的にはそうだ」と答えたと伝えられています。2

同じ年の8月に出た著書『ポストコロナの「日本改造計画」』(PHP研究所)には、こう書かれています。「一人に毎月七万円給付する案は、年金や生活保護などの社会保障の廃止とバーターの話でもあります。国民全員に七万円を給付するなら、高齢者への年金や、生活保護者への費用をなくすことができます」34

炎上と、本人の説明

案には、すぐに批判が集まりました。「1人毎月7万円では、とても生活できない」「単なる社会保障の削減ではないのか」。こうした声がネットにあふれたと、J-CASTニュースは伝えています。1 当時参院議員だった須藤元気氏は「年金生活者に飢え死にしろって言うことですかね」と投稿し、BIなら月20万円は必要だと書きました。2

竹中氏は2020年10月7日、J-CASTニュースの取材に応じ、おおむねこう説明しています。1

「1人7万円で生活できる」と言ったことはまったくない。7万円はあくまで平均で、その水準なら財政の負担が大きくならない、という意味だ。

家族4人で28万円は必要ないかもしれないので、3人目・4人目は安くし、その代わり単身のときは少し多めにする。

年金は、積み立てた分は保障しながらBIに切り替える。生活保護も、それを補うものとしてあっていい。

所得の高い人には高い税率、低い人にはマイナスの税率(お金を支給する)という、累進課税の仕組みにする。

とりあえず全員に先に渡し、高所得者は後から確定申告で返すのは悪い方法ではない。誰が弱者かは前もって分からないからだ。

意見著書の「廃止とバーター」と、インタビューの「積み立てた分は保障」「生活保護も補う」では、受ける印象がかなり違います。どちらが本来の案なのか、細かい制度設計は示されていません。そして、このはっきりしない部分こそが、家計の計算では一番大きく効いてきます。

7万円という数字はどこから来たのか

J-CASTニュースによると、竹中氏の案は、経済学者の原田泰氏の持論が元になっています。原田氏は2015年の著書『ベーシック・インカム──国家は貧困問題を解決できるか』(中公新書)などで、20歳以上に月7万円、20歳未満に月3万円を配る案を示していました。竹中氏はこれを「7万円前後」に広げ、累進的な形にしたようだ、と記事は書いています。15

ちなみに7万円は、国民年金(老齢基礎年金)の満額とほぼ同じです。2026年度の満額は月7万608円です。6

政党では、日本維新の会が2021年4月の党大会で、BI(最低所得保障)を公約に掲げる考えを示しています。全員に配るには年100兆円規模の財源が要ることが、そのときも大きな論点になりました。7

計算の前提

竹中氏は細かい設計を示していないので、ここでは前提をはっきり決めてから計算します。

金額は1人月7万円で、子どもも同じ額とする(番組のパネルどおり)。ただし4人世帯では、子どもを原田案の月3万円にした場合も示す。

年金は3通りで計算する。(A) 年金はそのままでBIを上乗せ。(B) 基礎年金だけをBIに置き換え、厚生年金の上乗せ部分(報酬比例)は保障。(C) 年金をすべてBIに置き換え。

生活保護は2通り。(A) BIで足りない分を生活保護で補う。(B) 生活保護を廃止する。

児童手当は、BIに置き換わるものとする(多くのBI案と同じ扱い)。

高所得者の返納は、どの年収からいくら返すかが示されていないので、「返さない」と「全額返す」の両端を示す。

財源のための増税や保険料の変化は、中身が示されていないので入れない。増税があれば、どの家計もその分だけ結果が下がる。

金額はすべて月額で、2026年度の制度で計算する。

いまの制度の数字は、公式の資料から取りました。年金は、国民年金の満額が月7万608円。会社員の夫と専業主婦の妻の「標準的な夫婦」は、2人分の基礎年金を含めて月23万7279円です。6 生活保護は、東京23区(1級地-1)の20〜40歳の単身者で、生活扶助が月7万7220円(第1類4万6930円+第2類2万7790円+特例加算2500円)、家賃にあたる住宅扶助が東京都の単身で上限月5万3700円。合わせて最大月13万920円で、医療費は医療扶助でまかなわれ、自己負担はありません。89 児童手当は、3歳から高校生年代までの第1子・第2子が1人月1万円で、2024年10月から所得制限はありません。10

5つの家計で計算してみた

1. 東京で一人暮らしの20代の会社員(年収300万円)。いま受けている給付は、とくにありません。BIの7万円がそのまま加わります。竹中氏の説明で返すのは「所得の高い人」なので、年収300万円が返す側に入るとは考えにくく、受け取りは月7万円、年84万円です。ただし財源のための増税があれば、その分は差し引かれます。月7万円が上限で、増税しだいで目減りする、というのがこの家計の答えです。

2. 夫婦と小学生2人の4人世帯(年収500万円)。いまの児童手当は2人で月2万円です。BIが一律なら4人で月28万円で、児童手当がなくなっても月26万円のプラス。竹中氏の言うように子どもの分を減らし、原田案の月3万円にするとBIは月20万円で、差し引きは月18万円のプラスです。子育て世帯は、この案で最も得をしやすい家計です。これも、増税の前の数字です。

3. 年金で暮らす高齢の夫婦(元会社員の夫と専業主婦の妻)。いまの年金は2人で月23万7279円で、そのうち基礎年金が2人分で14万1216円、厚生年金の上乗せ部分が9万6063円です。6 BIは2人で月14万円。結果は年金の扱いで大きく変わります。(A) 年金に上乗せなら月37万7279円で、月14万円のプラス。(B) 基礎年金だけを置き換えるなら、14万円+9万6063円=23万6063円で、差は月マイナス1216円。ほぼ変わりません。(C) 年金をすべて置き換えるなら月14万円だけになり、月9万7279円のマイナスです。

須藤氏が心配したのは(C)です。竹中氏がインタビューで話した「積み立てた分は保障」は、(B)に近い考え方です。なお、自営業などで国民年金だけの夫婦(満額で2人月14万1216円)は、どの場合もほぼ同じ額になります。逆に、保険料を払えなかった時期があって満額をもらえていない人は、BIで増えます。

4. 東京23区で生活保護を受ける30代の単身者。いまの保護費は、生活扶助と住宅扶助で最大月13万920円です。8 (A) 足りない分を生活保護で補うなら、BI7万円+保護費6万920円で、合計は変わりません。(B) 生活保護を廃止するなら月7万円だけになり、月6万920円のマイナスです。家賃の補助がなくなり、医療費の自己負担も生じえます。

著書の「生活保護の費用をなくす」は(B)、インタビューの「生活保護も補うものとしてあっていい」は(A)にあたります。この家計にとっては、どちらなのかが決定的です。

5. 夫婦と子ども2人の4人世帯(年収1000万円)。いまの児童手当は2人で月2万円です。BIは4人で月28万円。ここで効いてくるのが「高所得者は後で返す」という部分です。返さなくてよいなら、児童手当がなくなっても月26万円のプラス。全額返すなら、BIは手元に残らず、児童手当の分だけ月2万円のマイナスです。年収1000万円は返す側に入る可能性が高く、財源のための増税もこの層に重くかかるはずです。「ほぼゼロからマイナス」と見ておくのが現実的でしょう。

まとめると、こうなります(月額、増税の前)。

家計いまの給付BI差し引き
単身20代・年収300万円なし7万円+7万円(増税があれば目減り)
4人世帯・年収500万円児童手当2万円20万〜28万円+18万〜+26万円
元会社員の高齢夫婦年金23万7279円14万円+14万円〜−9万7279円(年金の扱いしだい)
生活保護の単身者(東京23区)最大13万920円7万円±0〜−6万920円(生活保護を残すかしだい)
4人世帯・年収1000万円児童手当2万円28万円+26万〜−2万円(返納しだい)

得をしやすいのは、子どもがいて、いまの給付が少ない世帯です。損をしうるのは、年金や生活保護に頼っている人と、返納や増税の対象になる高所得の世帯です。

意見「7万円では暮らせない」という批判は、主に年金や生活保護がなくなる場合の話です。一方、竹中氏の「7万円で生活できるとは言っていない」という説明は、ほかの制度を一部残すことが前提だと読めます。どちらの言い分も、前提をそろえれば数字で確かめられます。

国全体ではいくらかかるのか

家計の次は、財布の大きさです。日本の人口は1億2281万2000人(総務省統計局、2026年5月1日現在の確定値)です。11 全員に月7万円を1年間配ると、7万円×12か月×1億2281万2000人で、約103.2兆円になります。

2026年度の国の一般会計予算は122.3092兆円で、そのうち社会保障関係費は39.0559兆円です。12 BIの総額は、一般会計の約84%、社会保障関係費の約2.6倍にあたります。

竹中氏は、年金や生活保護の財源を回すと説明しています。3 年金や医療などを合わせた社会保障給付費は、保険料も含めて全体で144.1兆円あります。ただ、そのうち年金は63.7兆円です。13 年金をすべてBIに回しても、103兆円には約40兆円足りません。

足りない分を埋めるには、高所得者の返納でBIの実際の総額を減らすか、増税するかです。返納の線をどこに引くかで、必要な財源も、上の表の結果も変わります。金額や対象を変えると総額がどう変わるかは、BI計算機で試せます。月7万円を全員に配ると、GDPの約15.5%です。

まとめ

竹中氏の案は、2020年9月の番組で示された「全員に月7万円、高所得者は後で返す」というもの。著書では、年金や生活保護の廃止と引き換えとされていました。

本人は後に、7万円は平均で、それで生活できるとは言っていない、積み立てた年金は保障し、生活保護も残してよいと説明しました。著書とインタビューの間で、肝心の部分が食い違っています。

家計への影響は設計しだいです。子育て世帯は大きく得をしやすく、年金や生活保護に頼る人は、制度が残るかどうかで「ほぼ同じ」から「月数万〜10万円近いマイナス」まで変わります。

全員に配ると年約103兆円。年金をすべて回しても足りず、返納と増税の設計が欠かせません。

意見BIを評価するときは、金額だけでなく「何と引き換えか」「誰が返すのか」を見ることが大事だと思います。同じ「月7万円」でも、中身しだいで別の制度になるからです。

日本では2020年に、全員に10万円を配る特別定額給付金が一度だけ行われました。そのお金がどう使われたのかは、10万円の給付金のエッセイでデータから振り返っています。

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出典

  1. J-CAST News — “Let’s ask Heizo Takenaka about basic income again: ‘I never said you could live on ¥70,000 a month’” (interview, 10 Oct 2020, in Japanese) ↩
  2. Daily Sports — Genki Sudo criticises Heizo Takenaka’s ‘¥70,000 a month’: ‘Are you telling pensioners to starve?’ (7 Oct 2020, in Japanese) ↩
  3. Money Post Web (Shūkan Post) — “If basic income is introduced, social security such as pensions, medical care and public assistance may be cut off” (10 Oct 2020, in Japanese) ↩
  4. National Diet Library Search — Heizo Takenaka, Post-corona ‘Plan to Remodel Japan’ (PHP Institute, Aug 2020; book record, in Japanese) ↩
  5. Kinokuniya — Yutaka Harada, Basic Income: Can the State Solve Poverty? (Chūkō Shinsho, Feb 2015; book record, in Japanese) ↩
  6. Japan Pension Service — Pension amounts from April 2026 (in Japanese) ↩
  7. Kenichi Ogura, Gendai Business — on the Japan Innovation Party’s basic income policy and its funding (17 May 2022, in Japanese) ↩
  8. Ministry of Health, Labour and Welfare — How public assistance living-cost standards are calculated (Oct 2026; PDF, in Japanese) ↩
  9. Ministry of Health, Labour and Welfare — The public assistance system (in Japanese) ↩
  10. Kagawa Prefecture — The October 2024 child allowance reform (in Japanese) ↩
  11. Statistics Bureau of Japan — Population Estimates, October 2026 report (PDF, in Japanese) ↩
  12. Ministry of Finance — Explanation of the FY2026 budget and FILP plan (in Japanese) ↩
  13. Ministry of Health, Labour and Welfare — Social security benefits and burdens, FY2026 budget basis (PDF, in Japanese) ↩

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