エッセイ
中国の育児補助金、年3600元:誰がもらえて、ベーシックインカムと何が違うのか
2025年7月28日、中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁は「育児補助金制度の実施方案」を公表しました。2025年1月1日から、3歳未満の子どもに補助金を出します。国の基礎基準は子ども1人あたり年3600元、月にすると300元です。1 中国財政科学研究院の朱坤氏は『人民日報』で、これは「わが国が初めて住民に支給する、普遍的な現金補助」だと述べています。4
所得制限なし、第1子も第3子も同じ、現金を直接配る。こう聞くと、いわゆる「ベーシックインカム」によく似ています。本当にそうなのでしょうか。この記事では、まずルールを整理します。誰がもらえ、どう申請し、お金は誰が出し、実際にいくら配られたのか。次に、背景にある出生数と、「お金を配れば子どもは増えるのか」についての研究を見ます。最後に、ベーシックインカムの定義で測り、香港が2020年に配った1万香港ドルとも比べます。
誰が、いくらもらえるのか
対象は「法律や規定にしたがって生まれた3歳未満の乳幼児」で、3歳になるまで支給されます。1 第1子、第2子、第3子のどれでも対象で、所得の制限はありません。2 2025年より前に生まれ、2025年時点でまだ3歳未満の子どもには、残りの月数で按分して支給します。新華社の例では、2023年12月生まれの子どもは24か月分、計7200元を受け取れます。2 2025年以降に生まれた子どもなら、3歳までに最大で約1万800元です。
申請するのは父母のどちらか、または他の保護者で、申請先は子どもの戸籍(戸口)がある地域です。1 主な窓口は全国統一のオンラインシステムで、支付宝(アリペイ)、微信(WeChat)、各省の行政サービスから入れます。戸籍地の郷鎮政府や街道事務所で直接申請することもできます。国家衛生健康委員会は2025年9月8日、申請の受付が全国で「正式に全面開始」したと発表しました。7
自動で振り込まれるわけではありません。国家衛生健康委員会と財政部の管理規範では、最初の申請は子どもが生まれた年かその翌年に行い、その後2年続けて継続申請をします。期限までに申請しなければ「その年の申請資格を自動的に放棄したものとみなす」とされています。5 補助金は「年単位で計算し、年に1回まとめて支給」され、申請者か子どもの銀行カードや社会保障カードの口座に振り込まれます。各省は原則として四半期に少なくとも1回、まとめて支給します。51 2026年分の申請は2026年1月5日に始まり、継続申請の機能が加わりました。8 2022〜2024年生まれの子どもの最初の申請期限は、2025年末から2026年12月31日に延長されています。11
見落としやすいけれど大切なルールが2つあります。1つは、育児補助金には個人所得税がかからないこと。6 もう1つは、最低生活保障(低保)や特困などの扶助の対象を判定するとき、育児補助金を世帯や個人の収入に数えないことです。1 いちばん貧しい家庭が、これを受け取ったせいで低保を失うことはありません。
| 項目 | ルール |
|---|---|
| 対象 | 3歳未満の乳幼児。第1子、第2子、第3子のどれも12 |
| 金額 | 国の基礎基準は子ども1人あたり年3600元。地方は上乗せできる1 |
| 所得制限 | なし2 |
| 申請先 | 子どもの戸籍地。オンラインか窓口で17 |
| 支給方法 | 年1回まとめて、銀行カードや社会保障カードの口座へ5 |
| 税 | 個人所得税は非課税6 |
| 最低生活保障との関係 | 世帯や個人の収入に数えない1 |
| 申請は必要か | 必要。毎年1回。期限を過ぎるとその年はもらえない5 |
お金は誰が出し、いくら配られたのか
国の基礎基準の分にかかるお金は、中央政府が東部・中部・西部で異なる割合で補助します。国務院新聞弁公室の会見では「中央が全体で約90%を負担する」とされ、2025年の予算は当初約900億元でした。13 地方が基準を上乗せする場合、その分は地方が自分で出します。1
実際の運用はこうです。2025年12月31日までに31の省すべてで支給が始まり、支給を受けた子どもは2400万人を超え、2025年分の支給率は約80%でした。10 財政部は2026年1月末、2025年は全国の各級政府で約1000億元を充て、3000万人を超える乳幼児に支給したと説明しました。9 2026年の「政府活動報告」も、「育児補助金制度を全面実施し、3000万人余りの乳幼児に恩恵が及んだ」ことを前年の成果に挙げています。12 2026年は、中央政府が前年比10.6%増の999億元を交付し、各級政府の合計は約1100億元になる見込みです。10 2026年7月21日時点で、2026年分の申請は2751万件、審査を通ったのは2713万件、支給を受けたのは2516万人です。11
経済全体と比べると、規模は大きくありません。2025年の中国の国内総生産(GDP)は140兆1879億元です。13 約1000億元の育児補助金はGDPの約0.07%、2026年の約1100億元は約0.08%です。一方、家計と比べると小さくありません。年3600元は、2025年の全国の1人あたり可処分所得(4万3377元)の約8%、農村住民(2万4456元)の約15%、都市住民(5万6502元)の約6%にあたります。13 農村の家庭にとっては、決して小さなお金ではありません。
意見2026年に3600元の国の基礎基準を引き上げるという発表は、見つかりませんでした。全国規模の効果検証も、まだ見つかっていません。いくら配られたかはデータがあります。配られたあとで家計や子どもを持つ判断が変わったかどうかは、まだわかりません。
なぜ今なのか:出生数
背景には、出生数の急な減少があります。国家統計局によると、2024年の出生数は954万人、出生率は6.77‰でした。14 2025年の出生数は792万人、出生率は5.63‰で、死亡数は1131万人。年末の総人口は14億489万人で、前年末より339万人減りました。13 1年で出生数は約17%減ったことになります。
注意したいのは、2025年に生まれた子どもの多くは2024年にはすでに授かっていたこと、そして全国の方案が公表されたのは2025年7月だったことです。2025年の出生数で、この補助金を評価することはできません。何かがわかりはじめるのは、2026年以降の数字からでしょう。なお、育児補助金と並んで、就学前教育の最終学年を無償にする政策が、2025年に1400万人の子どもに適用されています。12
先に動いた都市:フフホト、天門、攀枝花
全国の方案より前に、もっと手厚い補助を試した都市があります。四川省攀枝花市は2021年7月、第2子と第3子に、3歳になるまで子ども1人あたり月500元を支給すると発表しました。17 内モンゴルのフフホト市は2025年3月1日から、第1子に1万元を一度に、第2子に計5万元(5歳まで毎年1万元)、第3子以降に計10万元(10歳まで毎年1万元)を支給しています。フフホトの2023年の出生数は約2万人でした。15 湖北省天門市は、第2子に2300元を一度に支給したうえで3歳まで毎月800元、第3子に3300元を一度に支給したうえで毎月1000元を出しています。16
これらの補助で子どもは増えたのでしょうか。証拠はまだ薄いと言えます。中国新聞社は、天門の出生数が2024年に17%増え、8年ぶりに増加に転じたと報じましたが、統計の出典は示されておらず、補助金の効果と他の要因を区別することもできません。16 フフホトの担当者は、出生数は2024年の時点ですでにやや持ち直していたと話しています。新しい補助が始まる前のことです。15 地方の数字は注目に値しますが、因果関係の証拠にはなりません。
お金を配れば、子どもは増えるのか
海外の研究が示すのは、効果はあるものの、たいていは控えめで、しかも安くはない、ということです。よく引用されるのはカナダ・ケベック州の研究です。経済学者のケビン・ミリガンは、子どもが生まれた家庭に最大8000カナダドルを支給した州の政策を調べ、政策の導入時と廃止時の両方について時期・地域・家族の型でグループを比べて、この政策が出生に「強い効果」を持ったと結論づけました。18 ただし、これは出生に結びついた支給で、月300元を長く払う仕組みとは違います。
韓国は逆向きの教訓です。韓国の監査院によると、韓国は2006年から2020年までに少子化対策に380.2兆ウォンを投じました。19 それでも合計特殊出生率は2023年に世界最低の0.72まで下がり、その後2024年に0.75、2025年に0.80へと持ち直しました。当局者は、持ち直しの主な理由を、結婚の増加(2025年は8.1%増)と30代の人口の多さに求めていて、特定の給付のおかげだとはしていません。20
意見私たちが読んだ研究をまとめると、こうなります。現金は、一部の家庭で出産を早めたり、もう1人を後押ししたりすることはあっても、現金だけで出生率の長い低下を逆転させるのは難しい。住まい、教育、仕事、育児の時間も同じくらい大切です。一方で、子どものいる家庭に現金を配ると子どもの貧困が減ることは、はっきりしています。給付付き税額控除のエッセイで見たように、アメリカで2021年に児童税額控除を拡充すると子どもの貧困率は大きく下がり、拡充が終わると再び上がりました。育児補助金も、出生数を増やせるかどうかだけで評価するべきではありません。
ベーシックインカムと言えるのか:BIENの5つのものさし
ベーシックインカム世界ネットワーク(BIEN)は、ベーシックインカムを「資力調査や就労要件なしに、すべての人に個人単位で無条件に届けられる、定期的な現金給付」と定義しています。21 10万円のエッセイでも使ったこのものさしを、育児補助金に当てはめてみます。
| ものさし | 育児補助金 | ベーシックインカム |
|---|---|---|
| 定期的 | はい。年1回 | はい |
| 現金 | はい。銀行カードなどの口座へ | はい |
| 個人単位 | 子ども1人ごとに計算し、親か保護者が受け取る | 一人ひとりが受け取る |
| 全員 | いいえ。3歳未満の子どもだけ | すべての人 |
| 無条件 | 所得や就労の審査はないが、毎年申請が必要 | 無条件 |
つまり育児補助金は、「定期的」と「現金」を満たし、「無条件」をおおむね満たし、「個人単位」を一部満たしますが、「全員」は満たしません。より正確に言えば、所得制限のない、幼い子ども向けの現金給付です。多くの国で「児童手当」と呼ばれるものの、はじめの一歩にあたります。ベーシックインカムとのいちばん大きな違いは、対象が人生の最初の3年間に限られていることです。
香港の2020年の1万香港ドル
中国語圏で「全員に配る」現金給付はあまり多くありませんが、その一例が、香港が2020年に行った「現金発放計画」です。2020年2月26日の予算案で、18歳以上の香港永住者1人あたり1万香港ドルを配ると発表しました。対象は約700万人、支出は約710億香港ドルの見込みでした。22 銀行は2020年6月21日からオンラインでの登録を受け付け、お金は銀行口座に振り込まれるか、香港郵政を通じて小切手で受け取れました。23
政府は2021年1月の立法会への答弁で、1月21日までに約640万人に約640億香港ドルを支給し、対象者の9割を超えたこと、事務費は約3億600万香港ドルだったことを説明しました。効果については、消費をある程度刺激したと「信じる」と述べただけで、測った数字は示していません。24 2021年11月23日までに、650万人を超える登録者に支給されました。25
意見香港の計画は「全員」でした。ほぼすべての成人の永住者が受け取りました。でも、配ったのは1回だけです。中国の育児補助金は「定期的」ですが、3歳未満の子どもだけです。ベーシックインカムには、その両方が必要です。全員に、そしてずっと配ること。日本の2020年の10万円も1回きりで、そのエッセイで見たように、多くは貯金に回りました。
全員の土台をつくると、いくらかかるのか
月300元を全員に配ったらどうなるでしょう。ベーシックインカム計算機で、中国の全員に月300元を配ると、グロスで年約5.1兆元、GDPの約3.6%です。18歳未満の子どもだけなら年約9700億元、GDPの約0.7%で、いまの育児補助金のおよそ9倍です。これは配る総額で、正味の費用ではありません。置き換えられるほかの支出も数えていません。
比較のために言うと、アメリカのアラスカ州は1982年から、州の基金から年齢を問わず条件を満たす住民に毎年配当を払っています。ベーシックインカムに近い仕組みとしては世界でいちばん長く続いているもので、年表で見られます。
「ベーシックインカムが来た」でも、「焼け石に水」でもない
意見育児補助金はベーシックインカムではありません。対象は人生の最初の3年間だけで、金額は農村の1人あたり可処分所得の約15%、しかも毎年申請が必要です。「中国がベーシックインカムを始めた」と言うのは言いすぎです。
かといって、「焼け石に水」の一言で片づけられるものでもありません。中国は初めて、所得を問わず、幼い子どものいるすべての家庭に、全国で現金を直接配りました。1年で3000万人を超える子どもに、非課税で、最低生活保障にも響かない形で。これは、どんなベーシックインカムにとってもいちばん難しい実務の部分です。一人ひとりを見つけ、口座にお金を届け、いちばん貧しい人がそれを受け取ったせいで他の支援を失わないようにすること。中国は3歳未満の子どもについて、その仕組みをつくりました。
これから注目したいのは3つです。基準額が所得や物価に合わせて上がるのか。対象年齢が延びるのか。そして2026年以降、出生数や子どもの貧困に変化があるのか。いつか対象年齢が広がれば、それは「子どものベーシックインカム」にどんどん近づいていきます。
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出典
- Xinhua via the Ministry of Ecology and Environment — General Offices of the CPC Central Committee and the State Council issue the Implementation Plan for the Childcare Subsidy System (28 Jul 2025, in Chinese) ↩
- Xinhua — National childcare subsidy plan published: 3,600 yuan per child per year until age 3 (28 Jul 2025, in Chinese) ↩
- Xinhua — State Council Information Office press conference on the childcare subsidy: central budget of about 90 billion yuan (30 Jul 2025, in Chinese) ↩
- People’s Daily — How much is the childcare subsidy really worth? (policy explainer, 29 Jul 2025, in Chinese) ↩
- National Health Commission and Ministry of Finance — Management rules for the childcare subsidy system (trial), Guo Wei Ban Ren Kou Fa [2025] No. 24 (24 Aug 2025, in Chinese) ↩
- China Daily (Xinhua) — Childcare subsidy exempt from individual income tax (Ministry of Finance and State Taxation Administration, 20 Aug 2025, in Chinese) ↩
- China Daily (CCTV News) — National Health Commission: childcare subsidy applications fully open from today (8 Sep 2025, in Chinese) ↩
- Tide News (CCTV News) — 2026 childcare subsidy applications open today (5 Jan 2026, in Chinese) ↩
- Yicai — Localities publish last year’s childcare subsidy spending (28 Feb 2026, in Chinese) ↩
- Jiemian — Central government allocates 99.9 billion yuan for the childcare subsidy; all levels expected to spend about 110 billion this year (2 Jun 2026, in Chinese) ↩
- People’s Daily via Guangming Online — 2026 childcare subsidy paid to more than 25 million (22 Jul 2026, in Chinese) ↩
- Government Work Report 2026, delivered by Premier Li Qiang on 5 Mar 2026 (bilingual reprint by the Yunnan Foreign Affairs Office, in Chinese and English) ↩
- National Bureau of Statistics of China — Statistical communiqué on the 2025 national economic and social development (28 Feb 2026, in Chinese) ↩
- National Bureau of Statistics of China — Statistical communiqué on the 2024 national economic and social development (28 Feb 2025, in Chinese) ↩
- Xinhua (China Youth Daily) — Hohhot puts real money into encouraging births (14 Mar 2025, in Chinese) ↩
- China News Service — Cash subsidies, childcare vouchers: localities explore birth subsidies (15 Aug 2025, in Chinese) ↩
- The Beijing News — Panzhihua to pay 500 yuan a month per child in childcare subsidy (30 Jul 2021, in Chinese) ↩
- NBER — Kevin Milligan, Subsidizing the Stork: New Evidence on Tax Incentives and Fertility, Working Paper 8845 (2002; Review of Economics and Statistics, 2005) ↩
- Asia Business Daily — 380.2 trillion won spent on low fertility from 2006 to 2020, Board of Audit and Inspection (13 Aug 2021) ↩
- The Star (Reuters) — South Korea’s birthrate, the world’s lowest, rises again (25 Feb 2026) ↩
- BIEN — About basic income ↩
- Hong Kong SAR Government — The 2020-21 Budget speech, Cash Payout Scheme (26 Feb 2020) ↩
- news.gov.hk — Cash payout registration details announced (8 Jun 2020) ↩
- Hong Kong SAR Government — LCQ1: Cash Payout Scheme, reply to the Legislative Council (27 Jan 2021) ↩
- news.gov.hk — Cash payout registration to close (25 Nov 2021) ↩